2014年7月19日土曜日

Brady Aiken、ドラフト史上3人目となる全体1位指名の契約非成立選手に。

現地18日午後5時、ついにBrady Aikenとアストロズは入団の合意に至らぬまま、ドラフト選手の契約期限、いわゆるデッドラインを過ぎてしまいました。これで全体1位指名選手が契約に至らなかった例は1971年にCWSに指名されたダニー・グッドウィン、1983年のティム・ベルチャーに次ぎ、Aikenで3人目となってしまいました。アストロズが彼に最終的に提示した額は5M。最初の6.5Mから1.5M落とし、アストロズ側から歩み寄った形になりましたが、それでも契約には至りませんでした。なぜこのような事態になったのか? この記事ではその経緯を追っていこうと思います。




まず去る6月7日。Aikenがドラフト全体一位を受けた2日後の6月7日に、サインボーナス6.5Mで合意に達したとの情報が流れました。その後彼は正式に契約するため、6月23日にヒューストンを訪れ、身体検査を受けました。結果から言うとアストロズが主張するには、このときの身体検査によりAikenの肘に重大な損傷があるという事実が発覚したそうです。それが公になったのは7月に入ってからでした。ここからの交渉は両者譲らず、アストロズ側は最初に合意した額から大幅に下げた額で合意しようと交渉を続けますが、Aikenとその周囲の人間は彼の肘に何も問題はなく、健康であると主張。最終的には合意に至らず、アストロズは補償を得るためのスロット額の40%以上(約3.17M)を提示していたため、来年のドラフトで全体2位指名の権利を得ました。




ここで両者の主張を整理し、検討してみたいと思います。アストロズの主張としてはMRIの結果Aikenの肘には「Singnficant abnormality(直訳すると著しい異常)」があるとし、サインボーナスを下げたかったわけです。一方のAikenとアドバイザーのケーシー・クロース、さらに周辺の人間が言うには、彼の肘には何の問題もなく、プロで投げる準備ができていたとのことです。AikenのトレーナーであるPaul Flores氏、チームドクター、ジェームズ・アンドリュース氏ら全てがAikenは健康であり、怪我ではないとしているそうです。なぜここまで主張が食い違うのでしょうか。そして、どちらの主張が正しいのでしょうか?
これは私の考えですが、Aiken側の主張が正しいのではと考えています、理由としては、先に挙げた関係者全てがAikenは健康であると主張していること、Aikenが高校最後の登板で97マイルをマークしていること、アストロズ側が検査の結果を公表していないこと。これらが理由です。Aikenの肘に重大な損傷があるとしているのはアストロズ側だけなので、彼らはサインボーナスを下げるために彼のMRI結果を利用したと考えられます。おそらく検査では重大ではないにしろ、軽微な損傷があったのでしょう。その検査結果を盾にして、アストロズとしては最初の合意より低くサインをさせたかったのだろうと、私は考えています。
しかしAiken側が健康だったとするならば、彼らにとってアストロズの言い分は不当な言いがかりということになります。当然、心象は最悪でしょう。彼らからしてみると金額うんぬんよりは、アストロズ側のやり方に多大な不信感を抱いたでしょうし、それが今回の契約が成立に至らなかった要因なのでしょう。


ではなぜ、Aikenとそのアドバイザーであるケーシー・クロース、今後のドラフト候補生たちへの悪印象を与えるようなやり方をしてまで、アストロズはサインボーナスを下げたかったのか。その理由としては21順目で指名しているMac Marshallの存在があります。彼はベースボールアメリカのドラフトプロスペクトランキングで57位にランクインしている逸材ですが、ルイジアナ州立大学へのコミットメントを持っており、また自身のツイッターで進学を匂わせる投稿をするなど、タフな交渉になるのは必至でした。アストロズとしてはAikenのサインボーナスを抑えることにより、Marshallとサインするだけのお金を捻出したかったのだろうというのが、今回の騒動の理由として考えられます。



もう一人、この騒動に巻き込まれた選手がいます。5順目で指名されていたJacob Nixはサインボーナス1.5Mで合意、身体検査にもパスしていたのにも関わらず、アストロズがAikenとの交渉が不調なことを理由に、その合意を白紙にされました。アストロズがAikenと合意できなかった場合、そのスロットバリューが総プールから差し引かれ、既に合意していたNixとの1.5Mのサインボーナスが入ったままではペナルティを受けてしまうからです。ボーナスプールから15%オーバーした場合、来年のドラフト1順目指名権が剥奪されます。アストロズはこれを避けました。



結局、アストロズはAiken、Nix、Marshallのうち誰とも契約が成立しないままデッドラインを迎えました。アストロズのやり方は正しかったのでしょうか? MLBの広報担当であるPat Courtneyは、アストロズのやり方はルール上全く問題ないと述べたそうです。しかし、アストロズはAikenもMarshallも得ることはできませんでした。それがこの歴史的な失策の是非を表しているような気がしてなりません。


今後のAikenはどうなるのでしょうか。彼が取ることができる道は大まかに分けて三つあります。一つはコミットメントを持つUCLAに進学し、3年後の指名を目指すこと。二つ目はジュニアカレッジ(2年生の大学)に進学し、来年また指名される道を目指すこと。三つ目は二つ目と似ていますが独立リーグのどこかのチームで投げ、これも来年指名される道を目指すこと。さて、彼はどの道を選ぶのでしょうか。


デッドラインは過ぎてしまいましたが、まだまだこの騒動は尾を引きそうです。MLB選手会のエグゼクティブディレクターであるトニー・クラークはアストロズに対し、何らかの法律的な訴えを起こす可能性を示唆しています。願わくばこのような事態が二度と起きることのないように。そう思いながら、今回はここで筆を置きます。